夏、涙なんかふりはらえ / 清水昶


ふたたび夏/蛇口をいっぱいに開いて/そのしぶきをあび/まぶたの仲に沈みこんだ/夏の祝祭を呼びおこせ/まだやわらかな喉笛は/セロリと共に落日を飲み下し/ゆうゆうと恋人に語りかける/僕の位置を計る/ひっさげた夏よ/レコードの回転盤からすべり出る音譜のように/なめらかに素速く/僕の季節を蹴破って走れ/その原理は/すさまじい夕焼をバックとした/噴水のように/僕の心臓を濡らして/抱き合った約束をうるおし/流れ落ちた水は/激しい勢いで僕を通過し/未来への挨拶だ/霧のように散れ/しかし/倒立した夏の切れ目から

だから/孤独なヨットが脳裏を走り/潰れた吸殻を何気なくふり返ったとしても/涙なんかふりはらって/夏の到来を理由とした僕は/平然と野球放送での聞き入ることが出来る/さあ/ふたたび夏 僕の夏

これまた熱いけれど、夏を強く感じる詩。映画も音楽も青春物がすきですが、詩も嫌いではありませんねえ。夏は嫌いなんですけど。詩人である清水昶、彼を知ったのは「太宰治論」だけど。評論も書いてるようです。

江分利満氏シリーズが本屋で見つからず。新宿ムダ歩きで疲れる。