・「奇跡も誰も語る者がいなければ」 / ジョン・マクレガー


イングランド北部のある通り。夏の最後の一日がはじまる。夕刻に起こる凶事を、誰ひとり知る由もないまま―。22番地の小さな眼鏡をかけた女子学生。彼女を密かに恋する18番地のドライアイの青年。19番地の双子の兄弟。20番地の口ひげの老人。そして、16番地の大やけどを負った男と、その小さな娘…。通りの住人たちの普段どおりの一日がことこまかに記され、そこに、22番地の女の子の、3年後の日常が撚りあわされてゆく。無名の人びとの生と死を、斬新な文体と恐るべき完成度で結晶させた現代の聖なる物語。

といっても、この作品自体は2002年頃の作品。新人ながら当時のブッカー賞候補にもなったもの。ページをパラパラとしただけで、目と心を奪われたのはその特異な文体。どこかの作家がまるで音楽の様だと評したその文体はまさしく言い得て妙、で。文章というより、もはや詩、である。だから苦手な人は苦手で、賛否分かれるのかもしれない。自分に限っていえば、感動すら、した。作品自体の話だけではなく、普通の人とは違う着眼点で切り取った描写に目が奪われてしまったのだけどね。多々投入される、ギタイ語とか情景描写と相まってとても魅力的だ。ただ、最初が衝撃的過ぎて、最後は無難というか。小さな出来事を扱って、ここまで魅せる構成や、名前もない人々の魅力を浮かび上がらせるのは、引き込まれたし、いろいろ考えさせられてしまうのも確か。人との関係性だとか奇跡とか今この瞬間だとか。ストーリーそのものというより、この文章に触れた感覚が今年1番。


素敵な色だね、きっと素敵になるねと言い、しかし誰も聞いてない。


切り取り方が魅力的という点で、スチュアート・ダイベックの「シカゴ育ち」と似た雰囲気を感じ取ってしまったのかもしれない。